「HAPPY NEW YEAR」プロローグ 

 ガマガエルみたいで醜い禿げつるてんのセクハラクソバカ上司に対し、心の中で「死ね! 死ね!」と唱え続ける。お前の手は私のケツを触るために生えてんのかっつの。ギロチンで切断するぞバカタレ。
 あーあーあ、今頃コタツで蕎麦すすりながらとっつぁん落語家がプロレスラーにビンタされるのをゲラゲラ笑って見てたろうにな、とか思いながら。
 ゴミ人間十八号の命令で一年ラストのハッピーデイもがっつり残業、残業オブザンギョー。「そりゃ同期も全員辞めらぁなぁ」と、散ってった同志に想いを馳せまくる。畜生、私もあいつらと一緒に辞めときゃよかったなーなんて、学生時代、バレーの名門でスパルタ食らったせいだ。
 無駄にバカな大人に対する耐性をつけちゃってたのが悪い。
 百対ゼロで私の人生設計が悪い。
 くそ。むかつく。
 スズメの涙というか、もうコオロギの糞並みに少ない残業代を稼ぐため、脳みそのシワを意図的に全部消してバカ面晒しつつカチャカチャとパソコンに向かうふりをする。周りもカチャカチャやってるけど、誰も作業は何一つ進んでいない。全員やってるフリをしながら「さっさと帰りてー」の一点張り。
 そりゃ、ロクな会社じゃねえわ。
 ここは明らかに掃き溜め以下。ウケる~。
 てな感じでしばらく時間を潰してると、クソガマガエルが、
「じゃ、今日は家族で嫁さんの作ったゲロうまチゲ鍋だから帰るわ。後はよろしくね~。明日にきらめけ! Chu♡ by川藤幸一」
 と、マジで殺してやりたくなるような笑顔を我々部下どもに向けてきた。嫁と子どもだけ殺してお前を永遠に絶望させたろうか。チゲと鍋は同じ意味なんだよ、カス。サハラ砂漠で遭難してしまえ。うんこ排泄物投げるぞ。
 ムカつくから眼球の奥で嬲り殺しにしてやってると、ガマは私の視線に気づきやがり、「お疲れビッグガールちゃん♪」なんて身長百七十八センチの私に向かってモラルのカケラもないゲロをぶちまけて颯爽と帰って行った。 
 死ねやマジで。マジで死ね。
 死ねっ! 
 私に殺される前に死んでくれっ!

 時計を見ると二十二時過ぎ。まだとっつぁん落語家はガッデムされてなさそうだ。ここからダッシュで帰れば多分見れる。パソコンの電源を、データがぶっ飛んでもどうせ何もしてないからいいやとか思いながら直でプッツンし、纏めてあった荷物を持って立ったらオフィス内には誰も居なかった。
 最後までオフィスにいた奴が警備室まで鍵を取りに行き、全席忘れ物とか消し忘れとか諸々チェックして消灯。んで鍵を閉め、また警備室に鍵を戻さなければならない。それが嫌で皆マッハのスピードで帰ったのだ。
 奴らは無能なくせしてそういうことだけは一丁前に早い。愚鈍なのは私の方ってことですかい。はいはい。
 インスタの裏アカに「死ねクソが。大晦日に残業とかうんこ以下かよ。労基に言ってボコして貰おうかな~。あ~あ、ビル・ゲイツにヘッドハンティングされてぇ~な~」とネットで拾ったジョブズの遺影を投稿しつつ、閉め作業を音速で終わらせて駅に向かった。したら高校時代に特別仲良い訳でもなかったバカでちんこ野郎な元クラスメイトから「それビルゲイツじゃなくてジョブズだよ」というナメたコメントがついたけど、んなこた分かっとるわいと思った。
 二重、三重のお笑いやっとんねんぞこっちは。お前みてーな証券マンごときのお笑いスキルで絡んでこられてもこちとら困りまんねん。困りまんねぇぇん!

 ジャンプしてワープ! 駅にドーン!
 オフィス街ど真ん中だっていうのに、背広の利用者はほぼ居なかった。代わりにどんちゃんバカの類人猿ことFラン大学生たちが激臭アルコールのベロ酔いで「ワッピょ~ン!」などと言語化不可能なFワード(Fラン大学生が使う言葉)を叫びながらつり革で懸垂してたので、脳内の白壁に「FUCK!」と血で殴り書きした。そしたらレッドシアターのオープニングみたいになったのでちょっとだけ浮かれる。そういや今年も紅白はウッチャンだったな。平手に優しくしてるウッチャン、だいすこ。今の私はこの類人猿どもに平手打ちかましてやりて〜けどな。地獄の果てまでイッテ帰ってくんな。
 ガチャコンガチャコンと貧乏揺すりみたいな揺れ方をしていた赤字路線から降り、時計を見てしまえば絶望する気がしたから何も見ずに即ダッシュ。
  実業団に入れなかった原因の痛め膝を庇いつつ、「♯KuToo」なんか知ったこっちゃない企業のルール、ヒール(帰って飲みたいのはビール(バイブスぶち上げ韻踏み踏み二階堂ふみ))をギチギチさせながら、なんでこんな日に寝てるのか、ジジババだらけの真っ暗な家路を駆け抜けていた。行く年来る年見てから寝ろ!
「急げ急げ、ビンタが終わる、急げ、急げ、ビンタが終わる」を掛け声に、切れる息を隠しながらくノ一走りでビュンビュン飛ばす。
「松っちゃん、待っててね~!」
 家まで残り二百メーター、次の曲がり角を曲がれば家はもうすぐだ。コーナーに差をつける瞬足ステップで曲がり角を曲がると、突如眼前に現れた人影にぶつかって私は尻餅をついた。
「いてててて、あ、ごめんな……」
 そいつは絶賛ヘラヘラ中だった私の頭をハンマーでボコン。
 オーマイ気絶! 
 意識がビューン!!
ジャスコ邪馬台国店アンソロジー
『ブートレグ氏』より
「HAPPY NEW YEAR」冒頭数ページ
著・舟岸南

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