PUNCH DRUNK NIGHT より 「未確認バズり物体」
ジャスコ邪馬台国アンソロジー
『PUNCH DRUNK NIGHT』より
「未確認バズり物体」冒頭数ページ
作・舟岸南
【一口あらすじ】
何もない田舎の田んぼに突如ミステリーサークルが出現。それを使ってひと山当てることを目論み、バズらせて観光地化しようとする役場職員と、騒動に振り回される町人たちを描いた群像劇。
【ユーフォー通り商店街の残骸】
錆びた『ユーフォー通り』の看板は朽ちかけ、今にも倒れそうだった。
シャッターだらけの商店街で唯一、今日までなんとか生き残ってきた『足立弁当店』もついに閉店である。
親子二代で営んできたこの店を、最後の感謝とばかりに掃除し尽くした店主の足立祐一は、一度外に出て感慨深そうに自分の店を今一度見直してみた。そして、
「ああ、UFOが来なければなあ……」
この頃口癖になっていたこの言葉を発してあからさまに肩を落とし、店唯一のアルバイトであり、看板娘でもあったレイナに、「思い出に持って帰って」と、今日も売れ残った『足立弁当店特製まんぞくUFOカレー』を渡してシャッターを閉めたのだった。
自転車を押しながら二人、ぼつぼつと帰路につく。
誰も写真を撮らなくなり、観光地としての効果を成さなくなった空飛ぶ円盤のモニュメントを通り過ぎるまで、足立もレイナも何も言わなかった。
「この円盤が町全体を狂わしたんだよなあ」
足立はまたそんなことを言いそうになって、とはいえ便乗した自分たちの責任でもあるし、レイナに愚痴をこぼしたところで何も変わらないかと自戒して、再びとぼとぼと歩いた。
止まらないため息。「あーあ。あーあ。」
ここ数ヶ月、そればかりの足立に辟易していたレイナは、それこそ最初のうちは「やめましょうよ」などと注意していたのだが、もう何も言わなくなっていた。
足立は重くなった首を回して夜空を見た。「年取ったな、これからどうしようかな」などとプランを考えるわけでもなく、ただ無情に空を見た。
夜空には今までに見たことのない放物線を描く謎の物体が飛行していたが、足立は気づかないふりをして何も言わず、短い間に起こった、この町を破滅に至らしめた全てをなかったことにした。
レイナはそんな足立に諦めを見たのだった。
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