【欠席:5/16東京文フリ】けだものフレンズ 『暴力』アンソロジー / 文文文庫

これは「暴力」テーマアンソロジー

率直なレビューを書いてくれた方のブログ

「暴力」とは何かをネクラに考えた3人の短編集は、結局テーマもなにやらあらぬ方向へ……。

480人のアイドル、思考するワンボックスカー、お料理教室へ通う殺し屋、ブリーフ中年男性を拷問する小学生……胡乱な作品を全11作を収録したお得な短編集!

リジン       寒川ミサオ

そこの底の怪獣たち 鳥原継接

わたしの大好きなお父さん 空木賢一

リバーシブル・ランドスケープ 寒川ミサオ

アイドルばかり聴かせないで  鳥原継接

アイドルの夢跡        空木賢一

サナブリされるキラー・ジム  寒川ミサオ

アンダーの彼方へ       鳥原継接

ワンボックス・バイオレンス  空木賢一

優しさに包まれて       もきね(ゲスト)

ブラックベルトの遠心     寒川ミサオ

トイズ       鳥原継接

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 二足歩行で、鈍重とした恐竜のような形だった。

 怪獣のまわりには、ハエのようにヘリコプターが飛んでいた。

 みるからに怪獣だ。あの音は夢じゃなく、怪獣の現れた音だったんだなあ。

 怪獣は現れて五分ばかりうろうろ歩き回ったあと、すぐにネジの切れたように止まってしまったらしい。その少しばかりの破壊で、住宅は十数件と商用ビル一棟が壊されて、十一人が重軽傷を負って老人四人と子供一人が瓦礫に潰されて亡くなった。と夕方、サヨリの病室のテレビで夫の買ってきた弁当を食べながら見たニュースは伝えた。

(中略)

 いろいろなセンサーの取り付けられた四歳の娘の胸が小さく上下している。どんな夢をみているのか、そもそもその頭で夢を見ているのか。夢も見れていないのだとしたら、きっと退屈だろうな。

 君が眠っている間に、たいへんなことが起きているよ。

 と、娘のへこんでしまった頭にそっと触れた。

----「そこの底の怪獣」抜粋 鳥原継接----

 処刑というのはあたしたち『ぐるぐるシスターズ』がVR上で仕切っているイベントだった。あたしたちを含めた多くのアカウントがVR空間に集まり、その中心であたしたちがリスナーたちの3Dモデルの頭と股間をピンク色の斧で潰していくのだった。斧を振るう時に「ぱいーん☆」と声を掛けるのが通例で、その声と同時に3Dモデルの四角い頭と腰が砕け散り、二頭身の身体の胴体だけが残る。それ見届けるリスナーたちは熱狂の渦を生むのだった。

 そこに現実の死はなかった。

 処刑された3Dモデルの持ち主は自動的にログアウトし、世界の外側からあたしたちの行動にコメントをつける。気持ちがいいと言う。自分が本当に処刑されたかのようなショックがあり、首筋にしびれを訴えながらもリピートを求める者たちが多かった。

(中略)

 滝沢昭信は四つん這いになり、あたしたちがその前後に立った。

「オンフ、はや、あ、h、フスー、早く、殺してほしいで、ござう」

「せーのでいくかんね」

 マドカはただ首を縦に降る。

「「「ぱいーん☆」」」

----「リバーシブル・ランドスケープ」抜粋 寒川ミサオ----

 やれやれ、きみの排気ガスは全くヘドロのようだね。

 なんだてめえコラァ! 喧嘩売ってんのか!

 ……まったく、品性が無いワンボックスはこれだから。早く私の主人に道を空け給えよ。それがきみのできる唯一の善き行いだと、どうして分からないのかね。

 はっ、お高く止まっているようだが、アンタだって所詮は最新型でない型落ちよ。俺のような何十年と愛されているやつから言わせれば、てめーらはぽっと出てぱっと消える、花火みてえな流行りモノに過ぎねえのさ!

 き、貴様! 言わせておけば!

----「ワンボックス・バイオレンス」抜粋 空木賢一----


特別試し読み「アンダーの彼方へ」鳥原継接

 あの夏、ぼくたちはカブと遊ぶことに夢中だった。

 思い出す。

 彼女のワンピースと赤いサンダル。夏の焼けるような熱い日差しと、カブの白いブリーフ姿を。

 小学生のとき、避暑地にある別荘へ家族で行くと毎年同じ時期にマヤちゃんはやってくる。

 マヤちゃんとは年も近いからよく遊んだ。オーナー社長同士で、両親も気が合ったのだ。双方の別荘へお邪魔しあったし、食事も両家混じって、大きな家族みたいだった。毎日一緒に、別荘の周りを駆けまわって、遊び疲れたらふたりで白いシーツにくるまって眠りこけて、まるで姉弟みたいだとパパやママに笑われるほど仲が良かった。

 ぼくとマヤちゃんは同い年なのに、ぼくは小柄でマヤちゃんのほうがこぶし一つ分背は高かったから、よくお姉さんぶられていた。でもぼくもマヤちゃんの背中を追って走り回るのに不満はなく、マヤちゃんは、いろんな遊びを考えるのが天才みたいにうまかったし、だからぼくは幼心に尊敬していたのだ。土を掘って、森の小川から水路を作る遊びも、作った水路をダムにして金魚を放したのだって、朽ち木を掘って拾ったクワガタの幼虫やダンゴムシをペットボトル一杯に詰め込んでつくったムシ爆弾だって、カマキリを分解して蟻にやったのだって、ぜんぶマヤちゃんが考えて最高に楽しかった。ムシ爆弾だけは、リビングでこぼしてしまってママにめちゃくちゃ怒られたけど、外出禁止を食らった一日にピアノの練習をするマヤちゃんといっしょに、ぼくはへたっぴなバイオリンを弾きながらへんな替え歌をつくっていっしょに演奏したのだって最高だった。

 今日は「ネイル遊び」だと、庭のベンチに座ってママの作ってくれたサンドイッチを頬張りながら、ぼくはマヤちゃんの提案を聞いた。

 水筒の冷たいレモネードで口の中のサンドイッチを流し込んだマヤちゃんは、もうぼくが食べ終わるのを待ちきれない様子で、ワンピースからのぞく足を揺らしている。今日も陽が沈むころにはワンピースも赤いビニルサンダルも泥んこで、それを見て二人のママたちが顔を見合わせて困り顔をする。そんな光景を想像してぼくもわくわくした。

「よしっ、秘密基地に行こ」

「じゃあ、ネイル遊びは、カブでやるんだね」

「そう、カブ」

「なにするの」

「ひみつぅ」

 ぼくが最後の一切れを口に入れた瞬間に、ベンチからマヤちゃんは跳ぶように立つ。咳き込みながらぼくも水筒に口をつける。「はやくはやくっ」小さな鞄と自分の水筒をひっさげて、もう駆けだしていくマヤちゃん。サンドイッチの入っていた容器と水筒をいそいで鞄に詰め込んで、わたわたとぼくは追いかけた。

 秘密基地は去年の夏に森のなかに見つけたプレハブ小屋で、猟師が冬は使っているのかもしれなかったけれど、夏はぼくたちだけの王国だった。古ぼけたひじ掛け椅子や机もあったし、スケッチブックや双眼鏡を持ち込み、棚に虫籠を並べて捕まえた虫を飼っていた。

 ぼくたちが基地に入ると、カブは部屋の隅で丸く膝を抱えていた。


既刊なので電子版があるはず(あるかな?)


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