読む#ヤクブーツはやめろ 『薬物』アンソロジー / 文文文庫様
※こちらは無料の試し読みのレビューです
文文文庫アンソロジー『薬物』テーマ
クスリ・ドラッグを縛りに書かれた短編小説を三本収録。
SF百合ックス暗黒神話…老紳士からクスリを買う鐘守りの娘…大麻で結ばれた少女たちの巨大感情関係…。胡乱な話が含有されて、お得な一冊になっています。
目次
「産地によって成熟時期に差があり」鳥原継接
「カプセル・シュガー」空木賢一
「とにかく明るいラリ村」寒川ミサオ
成宮葉月は、魚の鮭が好きだ。オスメス混じって気が狂ったように一斉に川の上流へ遡ると、メスは大量の我が子をゴミみたいにひねり出して、それにぶっかけようとオスの放出された精子で川が真っ白に染まるのをテレビで見たのだ。あのバカみたいな大口を開けたまま卵と精子に全身まみれて、バカみたいに死んでクマに雑に食われたりする大群になぜか強い親近感を葉月は持っていた。
奥歯に挟まれて『天使の卵』は魚卵じみてつぶれた。予期した生臭さは一切なく、ほのかに苦かった。葉月は自分の裸の胸元にタピオカドリンクを少しづつひっくり返した。流れたカルーアミルクに誘われた芽衣子が下腹部からあがってきて、舌先で葉月の上に乗った赤い卵を舐めとり、パンくずを啄む小鳥みたいに唇の先でキスをしながら、葉月は舌に乗せた卵を芽衣子の舌と一緒に甘噛みする。潰れた卵から漏れたドロリとした液体は喉を下り、舌から喉が痺れ、気管がせばまり呼吸が苦しくなる。
ーーーーーー産地によって成熟時期に差があり」鳥原継接
町の外から商隊の馬車が連なって走ってくるのも見えた。
そういったものを見るたびに、みんな鐘守より楽しそうだなと羨ましくて仕方がなかったけど、今の私にはカプセルがある。そう思うと、何だか笑えてきてしまった。
包み焼きを手早く食べ終わると、お待ちかねの紙袋を開ける。1、2と数えると、間違いなく十粒ある。流行りものだと分かっていたら、もう少し買っておいたのに。ちょっとだけ後悔。さっそく一粒口の中に入れてみる。コロコロと舌の上で転がすと、なるほど確かにほんのり甘い。何か果物のような味にも思えるし、ただの砂糖のような甘さにも思える。なんだか不思議な味だ。
我慢できなくなり、思わず歯で噛み砕いてしまう。中に何か入っていたみたいで、じんわりと蜜が溶け出してきたような甘さが広がってくる。さっきよりも格段に美味しくて、涎がたちまちあふれ出てきたせいで、思わずごくりと飲み込んでしまった。
ーーーーーー「カプセル・シュガー」空木賢一
安村は唐突にベッドから飛び上がる。そしてベッドの下から大麻草でパンパンになったスーパーの袋をいくつか引っ張り出して、まるで修学旅行の枕投げでもするみたいにあたしに向かってポンポン投げてくる。あたしが手で払いのけた袋の一つが破けて部屋の中で大麻草が散り散りになって舞う。エアコンの送風にさらわれた濃密な草いきれが部屋いっぱいに広がって、目眩に襲われたあたしはベッドで横になり、跳び上がって上からダイブしてくる安村の細すぎる体をウッ、、、と抱きとめる。
安村はあたしに馬乗りになって冷蔵庫から出してきたビールを自分で一口だけ含み、後は全部あたしの胸にぶっかける。あたしの口に指を突っ込んで強引に広げ、缶に残ったビールを全部流し込んでくる。
(中略)安村は冷蔵庫からビールをもう二、三本出してきて机の上に並べて指でなぞる。そのうち一本を開けて一気に飲み干そうとして、でも出来てなくてむせ上がり、カーペットに酒をぼたぼたこぼしながら、濡れた頰を手首で拭って言う。
早く死んじゃいたい、と。
どうにかなっちゃいそう。
ーーーーーー「とにかく明るいラリ村」寒川ミサオ
特別試し読み『産地によって成熟時期に差があり』鳥原継接→こちら
主人公は女子大生。Not処女。
サークルで紹介された『天使の卵』と呼ばれるクスリは赤くて丸いグミみたいな粒粒でした。
そしてサークルの中でクスリが流行しており、酒とクスリの力でサークルメンバーは男女問わず半裸で情欲におぼれています。
そして主人公「葉月」の相手は「芽衣子」という帰国子女。
当然のように芽衣子も深酒でべろべろに酔いながら行為に及びます。
プラトニックどころかずぶずぶの肉体関係による愛ですね。
清純・清楚が好きな方には合わないでしょうが、そもそもお題が薬物というだけあって純粋な方には向かないでしょう。
逆に大人の汚さ、快楽の味、堕落してゆく快感、理性と倫理の脆さといったダークなものがお好きな方には刺さると思いますよ。
レビュワー:キタイハズレ(文芸高等遊民所属・サイトオーナー)
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