けだものフレンズ 『暴力』アンソロジー (文文文庫様)

※こちらは無料の試し読みのレビューです


「暴力」とは何かをネクラに考えた3人の短編集は、結局テーマもなにやらあらぬ方向へ……。
480人のアイドル、思考するワンボックスカー、お料理教室へ通う殺し屋、ブリーフ中年男性を拷問する小学生……胡乱な作品を全11作を収録したお得な短編集!
リジン       寒川ミサオ

そこの底の怪獣たち 鳥原継接

わたしの大好きなお父さん 空木賢一

リバーシブル・ランドスケープ 寒川ミサオ

アイドルばかり聴かせないで  鳥原継接

アイドルの夢跡        空木賢一

サナブリされるキラー・ジム  寒川ミサオ

アンダーの彼方へ       鳥原継接

ワンボックス・バイオレンス  空木賢一

優しさに包まれて       もきね(ゲスト)

ブラックベルトの遠心     寒川ミサオ

トイズ       鳥原継接


 二足歩行で、鈍重とした恐竜のような形だった。
 怪獣のまわりには、ハエのようにヘリコプターが飛んでいた。
 みるからに怪獣だ。あの音は夢じゃなく、怪獣の現れた音だったんだなあ。

 怪獣は現れて五分ばかりうろうろ歩き回ったあと、すぐにネジの切れたように止まってしまったらしい。その少しばかりの破壊で、住宅は十数件と商用ビル一棟が壊されて、十一人が重軽傷を負って老人四人と子供一人が瓦礫に潰されて亡くなった。と夕方、サヨリの病室のテレビで夫の買ってきた弁当を食べながら見たニュースは伝えた。

(中略)

 いろいろなセンサーの取り付けられた四歳の娘の胸が小さく上下している。どんな夢をみているのか、そもそもその頭で夢を見ているのか。夢も見れていないのだとしたら、きっと退屈だろうな。

 君が眠っている間に、たいへんなことが起きているよ。

 と、娘のへこんでしまった頭にそっと触れた。

----「そこの底の怪獣」抜粋 鳥原継接----

 処刑というのはあたしたち『ぐるぐるシスターズ』がVR上で仕切っているイベントだった。あたしたちを含めた多くのアカウントがVR空間に集まり、その中心であたしたちがリスナーたちの3Dモデルの頭と股間をピンク色の斧で潰していくのだった。斧を振るう時に「ぱいーん☆」と声を掛けるのが通例で、その声と同時に3Dモデルの四角い頭と腰が砕け散り、二頭身の身体の胴体だけが残る。それ見届けるリスナーたちは熱狂の渦を生むのだった。
 そこに現実の死はなかった。
 処刑された3Dモデルの持ち主は自動的にログアウトし、世界の外側からあたしたちの行動にコメントをつける。気持ちがいいと言う。自分が本当に処刑されたかのようなショックがあり、首筋にしびれを訴えながらもリピートを求める者たちが多かった。

(中略)

 滝沢昭信は四つん這いになり、あたしたちがその前後に立った。

「オンフ、はや、あ、h、フスー、早く、殺してほしいで、ござう」

「せーのでいくかんね」

 マドカはただ首を縦に降る。

「「「ぱいーん☆」」」

----「リバーシブル・ランドスケープ」抜粋 寒川ミサオ----

 やれやれ、きみの排気ガスは全くヘドロのようだね。
 なんだてめえコラァ! 喧嘩売ってんのか!
 ……まったく、品性が無いワンボックスはこれだから。早く私の主人に道を空け給えよ。それがきみのできる唯一の善き行いだと、どうして分からないのかね。

 はっ、お高く止まっているようだが、アンタだって所詮は最新型でない型落ちよ。俺のような何十年と愛されているやつから言わせれば、てめーらはぽっと出てぱっと消える、花火みてえな流行りモノに過ぎねえのさ!

 き、貴様! 言わせておけば!

----「ワンボックス・バイオレンス」抜粋 空木賢一----

特別試し読み「アンダーの彼方へ」鳥原継接→こちら


"あの夏、ぼくたちはカブと遊ぶことに夢中だった。"

主人公の「ぼく」と幼馴染の「マヤちゃん」、それから「カブ」。

三人は秘密基地で遊ぶことを繰り返していました。

秘密基地とは去年の夏に森のなかに見つけたプレハブ小屋で、古ぼけたひじ掛け椅子や机もあり、スケッチブックや双眼鏡を持ち込みんで棚に虫籠を並べて捕まえた虫を飼っていました。

さて、登場人物について言及すると「ぼく」と「マヤちゃん」の家庭は裕福そのものですが、「カブ」についてはほとんど説明されていません。

「カブ」という名前はおおよそ人間らしくありません。

どちらかというとペットのような名前です。

「カブ」とは何者なのか。

試し読みには

”カブの白いブリーフ姿”

”ぼくたちが基地に入ると、カブは部屋の隅で丸く膝を抱えていた。”

と描写されています。

膝を抱えていたということは人間だと思いますが、同じ人間だとしてもぼくやマヤちゃんからどういう扱いを受けているかという疑問が生まれます。

ぼくとマヤちゃんはカブに対して「ネイル遊び」をすると言っています。

本当に遊びなのでしょうか。

カブも楽しめるような明るいものなのでしょうか。

『暴力』アンソロジーということで、嫌な予感しかしません。

ですが、試し読み部分だけではこの疑問を解決することはできません。

この先は本を買って読むしかないということでしょう。



レビュワー:キタイハズレ(文芸高等遊民所属・サイトオーナー)

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